「花のいのちはみじかくて、苦しきことのみ多かりき」

尾道で青春時代を過ごした林芙美子が生前によく色紙に書いたという言葉を、桜の散る頃になると毎年よく思い出します。しかし、これは全文ではなく、実は出典となる詩があることを最近になって知りました。

風も吹くなり
雲も光るなり

生きてゐる幸福(しあわせ)は
波間の鴎のごとく
漂渺とただよい

生きてゐる幸福(こうふく)は
あなたも知ってゐる
私も知ってゐる

花のいのちはみじかくて
苦しきことのみ多かれど

風も吹くなり
雲も光るなり

出典《レファレンス協同データベース》 
『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』村岡恵理 著 マガジンハウス 285p、286p

この詩は、47歳で亡くなった彼女が、その晩年に書いたものではないかと言われているそうです。
貧困や孤独、放浪、そして戦火の中を生きた林芙美子が、どのような心境に至ってこの詩を書いたのかは分かりません。ただ、彼女のような悲しみや苦しみを背負った人の胸に、この詩は何かを語りかけて来るのではないかと思うのです。