先日、ふと将棋士の内藤國雄九段が唄う『おゆき』という曲を聴きたくなって検索していたら、作曲者の弦哲也さんご本人の模範歌唱が入ったCD教材があることを偶然に知り、すぐに購入しました。

YouTubeで教材の冒頭が少しだけ紹介されているのですが、この部分を聴いただけでも歌唱の極意が伝わって来るような貴重な内容です。ボーカリストの方には特に役に立つ内容だと思いますので、是非こちらを聴いてみてください。 (残念ながら現在は公開が終了しています)
弦哲也さんといえば『天城越え』や『人生かくれんぼ』など沢山のヒット曲がありますが、この唄が作曲家としてのデビュー作だったのですね。小さな頃に大ヒットして、子供ながらによく口ずさんでいた唄でした。
この教材でも触れられている『語るように唄う』というのは、よく聞かれる歌唱のポイントかもしれませんが、それは単なるテクニックというわけではなく、唄に思いを込めるほどに、自然とそうなる結果であるようにも思います。ただ上手く唄うということとは違う、むしろたとえ朴訥としていても、聴いてくれる人に想いを伝えたいという気持ちから生まれてくるような…
とは言いながら、沢山の歌い手の方がカバーしている『おゆき』を改めて聴いてみると、本家の内藤さん以外で弦哲也さんが語る歌い出しの歌唱のポイントをクリアしているのは、自分が聴いた中では杉良太郎さんだけでした。
神は細部に宿る、という言葉もありますが、絶妙の歌唱や言い知れぬ懐かしさを漂わす心打つ唄というのは、やはりこういう細部に行き渡る歌い手の魂の表現があって、初めて生まれてくるものなのかもしれません。
ところで、このCDを聞きながら何となく気になって色々調べていたら、最近好きになってずっと聴いている歌い手の方の曲を作っているのが、何と弦哲也さんの息子さんであるということに気がつき驚きました。その歌い手の方の名は『おがさわらあい』さんです。
あいさんのお父さんは三味線演奏家、お母さんは民謡歌手だったとのことで、その声の魅力は、この時代に存在することが奇蹟ではないかと思えるほどの懐かしさを感じるものです。はじめて『おゆき』を聴いてから40年以上が経ちましたが、あいさんの歌唱に惹かれて、今またこの時代に出逢った曲が、奇しくもそのようなルーツを持っていたというのは、何とも感慨深いものがあります。
「いい音はなつかしい」、ジャックスの早川義夫さんのエッセーの中にあったそんな言葉を、ふと思い出しました。